Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

Report

ジャン-マルク・レヴィ-ルブロン先生の授業 (2015)

ゴールデンウィークも過ぎ、本年のユーロフィロソフィのプログラムも中盤に入りました。5月11日からは三日間にわたり、ニース大学名誉教授で物理学者のジャン-マルク・レヴィ-ルブロン先生による講義が行われました。「科学認識論」と題された講義は、そのタイトルに相応しく物理学の基礎的概念や方法を哲学的な視点から再確認しつつ、最後には科学哲学の初歩から一歩踏み込み相対性理論について論じるものとなりました。

第一回目は、導入として近代物理学の哲学への「否定的」(メルロ-ポンティ)な影響が語られました。近代物理学はその始まりから新たな現象の数多くの発見を行いましたが、これは同時に、地動説がそうであるように、世界についてのそれまでの哲学による説明を否定するものでした。ところが、19世紀の終わりからは、近代物理学はさらに広汎に、人間の思考の一般的カテゴリーをも揺るがすものとなっていったのです。すなわち、そこでは時間や空間、物質の実在性などについて、哲学的な根本的視点の再検討が行われていきました。

翌日の第二回目の講義は、まずガリレオの有名な言葉の引用から始まりました。ガリレオは『偽金鑑識官』(1623)で世界を一つの本に喩え、この本は数学の言語によって記されているため、それを読み解くためにはそれを理解し知らなければならないと述べています。ではその数学の言語とはどのようなものなのか。物理学と言語との関係の問題が第二回目の授業の中心でした。物理学の古典期、そして19世紀においては、物理学の表記の案出はきわめて真剣な営為であったのが、20世紀以降、それが安易に行われるようになり('ビッグバン'といった命名がその例とされていました)、そのことが研究姿勢そのものにも影響を及ぼしていると指摘されました。

最終日となる第三回目の講義は、時間-空間を幾何学的に扱う取り組みとして、相対性理論が論じられました。まず四次元を越えるN次元空間の理論化がどのようになされてきたのかが、ユークリッド幾何学や球面幾何学を用いた試みを挙げて説明されました。そうした積み重ねの上に、アインシュタインは光の速さを時間の尺度として採用することで相対性理論を作り上げたこと、また相対性理論に対する批判としてあったベルクソンの時間論や双子のパラドクスについての解説も行われました。そして、講義の結びとして、時間-空間を幾何学的に扱うこの理論は、その意味で「相対性理論」ではなく「クロノジオメトリーchronogéométrie」と呼ばれるべきものであることが示されました。

授業風景
レヴィ-ルブロン先生

村上靖彦先生の授業 (2015)

4月16日には終日、午前と午後で3回に分けて、大阪大学の村上靖彦先生による講義が行われました。内容は『日本における統合失調症患者のホームケアの現象学』です。講義では、フッサール現象学からの考察を基に、統合失調症の、とくに治療に関わる人々を見ていきました。

第1回は「日本における精神科の歴史」と題して、第二次世界大戦後の日本で行われていた精神疾患患者に対する治療のあり方を歴史的に見ていきました。当時、特に暴れてしまう可能性のある精神病患者は外の世界から隔離した状態で治療が進められていました。しかし、それは患者の自由を束縛してしまうもので、時には暴力沙汰になることもあり、遂には死亡事故をまで生じさせました。そこにはたいへん暗い歴史があったわけです。この事故がきっかけとなり、現在では(1987年以来)、暴力を禁止し、精神病患者の人権を守る法律が制定されています。

第2回はフッサールの現象学を基にした考察から、現代行われているACT (Assertive Community Treatment) について学んでいきました。ACTは1970年にアメリカで生まれた治療法で、これまでの患者の自由を束縛してしまう治療とは違い、患者の状況をありのままに受け入れ、在宅のままで、治療と生活とをともに地域で包括的に支援するプログラムです。日本では2003年に導入されました。それまでの現象学的精神病理学との対比で、このACTの特徴が語られました。

第3回、今回最後の講義では、統合失調症患者の看護に携わっている看護師の方に、村上先生が実際に行ったインタビューを基に、授業が進められました。統合失調症の場合、症状が重ければ、患者はどんどん自分の中で独自のルールを築き上げていってしまいます。「そんな症状に向き合っていく時、場合によっては、〈妄想デート〉をしているように受けもった人のニーズに答えていくようにする」という介助者の話がとても印象的でした。こうして、介助者が、患者一人一人の状況に合わせてその人の不安と向き合っていく、という接し方は、精神科の治療にだけではなく、現象学そのものの刷新にもつながるもの、ということです。私としては、この方法は、日常生活の中でも生かせることなのではないかと考えました。

授業は淡々と進められ、皆、村上先生の講義に真剣に耳を傾けていました。一度に3コマ分、計6時間にも及ぶ講義を受け、受講者にはその日はとても内容の濃いものとなりました。後日、当日の受講者と夕食を食べに行った際に、この授業のことも話題に登りました。「やっぱり」「なんか・・」といったテキストに載っていた、インタビューでの日本語が、皆の口から思わず飛び出して来ました。

(なお今回の講義内容は、近刊の村上靖彦先生の論稿:「仙人と妄想デートする ― ACTによる重度の精神障害者への在宅支援と反転された精神病理学」,『現代思想』,43(12),2015年5月号 で確認していただけます)

授業風景