Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

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授業風景その7 (2012)

法政大学の安孫子信先生の3回にわたる講義が開講されました。

本講義のテーマは「科学の分類と哲学」であり、ここではまず、オーギュスト・コント(1798-1857)について、彼の前期思想を中心に、主著『実証精神論』(1844)などをじっさいに引用しつつ解説が試みられました。

そのあらましとして、ナポレオンの登場により革命を終え、未だ混沌としていた当時のフランスの社会情勢を背景に、まず、コントによると、「内的観察」により「絶対的知識」を追い求める「形而上学的哲学」を含んだ「否定主義」に対抗するのを目的に、コントが自らの哲学として「実証哲学」(即ち、「社会学」)を誕生させた過程を概観しました。

そして、こうした「実証性」を掲げたコントの思想が依拠したのは、「実効ある観察」と、それが求める「法則」でしたが、コントにおける「法則」として広く知られる「三段階の法則」および「分類の法則」についても説明がなされました。(コントに関する安孫子先生の御業績の一例として、以下が挙げられます。『哲学の歴史8 社会の哲学』(共著、中央公論新社、2007年)。Positivism and the Spirituality -Auguste Comte's Biological Philosophy-, in : Annual Review of the Japanese Society of the French Philosophy, No. 5, 2000, in Japanese)

次に、西洋語の「philosophy」の訳語として「哲学」という言葉を創ったことでも知られる、日本を代表する啓蒙家の西周(1829-1897)について紹介がありました。若くして「朱子学」を修め、1862年からオランダに留学し、コントやミル(1806-1873)に深い影響を受けた西が、3年後に帰国した後、ミル、コントの実証主義哲学をモデルとした学問体系を築こうとしたことについて学びました。(西周に関する安孫子先生の学会発表の一例として以下が挙げられます。Nishi Amane et le problème de la classification des sciences, in : International Japan-Studies Library, Hosei University, No.4, 2006, in French)

以上本講義では、19世紀前半の西ヨーロッパにおける「科学」と「哲学」の関係づけ、およびその後の歩みを語る上で、コントの名は確固とした位置を占めていること、そして彼の思想は、はるか日本にも伝播していっただけでなく、その後20世紀のフランスにおいては、ベルグソン(1859-1941)やデュルケーム(1858-1917)にも受け継がれていったという思想史上の重大な転換期について再認識することができました。


安孫子信先生

授業風景その6 (2012)

東京大学の鈴木泉先生の3回にわたる講義が開講されました。

本講義のテーマは「スピノザと現代フランス哲学の諸問題」であり、ここではまず、≪ La philosophie de la ritournelle : Deleuze & Guattari et la pop'music ≫という表題のもと、ジル・ドゥルーズ(1925-1995)とフェリックス・ガタリ(1930-1992)の共著『千のプラトー──資本主義と分裂症』(1980)における「リトルネロ」、「領土」といった概念をめぐり議論がなされました。(このテーマに関する鈴木先生のご業績として、以下の論文が挙げられます。「リトルネロ/リフの哲学 ドゥルーズ&ガタリの音楽論に寄せて」『現代思想』「ドゥルーズ」第36巻第15号、青土社、2008年、pp. 194-203)

また、「力能と<事象性の度合い>――スピノザ『デカルトの哲学原理』第一部定理7 に関する覚書」と題する論考が示され、スピノザ(1632-1677)の『デカルトの哲学原理』(1663) や『形而上学的思想』をテクストとして、デカルト哲学の核心に潜んでいる「力能」概念が『デカルトの哲学原理』においては消え去り、『エチカ』(1677)において浮上する意味について議論が行われました。(この議論の基となった鈴木先生の学会発表として、以下が挙げられます。《 Degrés de réalité 》 et puissance. Remarques sur Principia... I, 7, scolie, Journée d'étude franco-japonaise, 《 Spinoza interprète de Descartes : les Principia Philosophiae Cartesianae 》, Université de Paris I, 2007 年6 月9 日)

さらに『スピノザと表現の問題』(1968)を著したドゥルーズをはじめ、M.ゲルー(1891-1976)、A.ネグリ(1870-1945)、A.マトゥロンといったスピノザ研究を代表する思想家が紹介されたのち、「一義性」「内在」「個体化」といった概念から議論が試みられ、そのうち、筆者が特に関心を抱いたのは、グレゴリー・ジャン氏の専門とする、M.アンリ(1922-2002)の著書『スピノザの幸福』(1944)におけるスピノザの影響であり、「自我」の問題に深く通じる、アンリの「自己触発」といった概念が、いかに解釈されうるのか改めて考えさせられました。

現代フランス哲学を中心に進められた本講義は、本プログラム期間中に東京大学で行われた講演会や学生によるワークショップの内容とも深く関連することで、稔り多い時間となりました。


鈴木泉先生

授業風景その5 (2012)

明治大学の合田正人先生の3回にわたる講義が開講されました。

今回の講義のタイトルは「ディアスポラ・システム論に向けて」であり、この観点から「日本的なもの」を考え直すために、「沖縄学」、「日本の精神医学」、「吉本隆明の思想」が取り上げられました。

本講義ではまず、合田先生が教鞭をとられていたことでも知られる「琉球」「現:沖縄」について地理的な解説に始まり、写真家の比嘉豊光(1950-)、さらには、沖縄に関するエッセーを遺した芸術家の岡本太郎(1911-1996)などにも触れながら、「沖縄学」の始祖とされる民俗学者の伊波普猷(1876-1947)の生涯と著作が紹介されました。伊波の「沖縄学」が明治期日本に移入されていた西洋人文諸科学を前提としているという観点から、言語学では、上田萬年(1867-1937)、イギリスの日本語学者B.H.チェンバレン(1850-1935) 、少壮文法学は、スイスの言語学者ソシュール(1857-1913)、アメリカの哲学者ドナルド・デイヴィッドソン(1917-2003)、人類学では、フランスの神経科学者P.ブローカ(1824-1880)、フランスの人類学者レヴィ=ストロース(1908-2009)などが扱われました。

第二回では、精神医学における「スキゾフレニア」をめぐり、木村敏(1931-)と中井久夫(1934-)が紹介されました。そして、第三回では、今年他界した吉本隆明(1924-2012)の著作『共同幻想論』(1968)について論じられました。(吉本隆明に関する合田先生の著作として、以下が上梓されています。『吉本隆明と柄谷行人』PHP新書、2011年)

本講義は、他国においてだけではなく、日本においても意義深いテーマを立てることにより、エラスムスの学生にとっても、異質な文化領域に触れるような、新鮮かつ貴重な機会となりました。


合田正人先生