Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

Report

ジャン・ガイヨン講演会(東京大学)(2013)

去る4月6日(土)、16時より、東京大学本郷キャンパス教育学部第一会議室において、パリ第1大学のジャン・ガイヨン先生の講演会が行われました。今回の発表タイトルは、「エンハンスメント問題を巡って」(Autour du probleme de l'amélioration humaine)でした。(本発表の基礎となったガイヨン先生のご業績として、以下が挙げられます。Simone Bateman et Jean Gayon, « L'amélioration humaine : trois usages, trois enjeux », Médecine/Sciences, n° 10, vol. 28 (octobre 2012), 887-891.)

「ヒューマン・エンハンスメント」とは、脳神経科学や、細胞生物学などをベースに、人間のもつ知的および身体的能力を、現在の状態から改善させることを意味します。ガイヨン先生の発表の目的は、それが私たち人間にどのような結果をもたらすのかについて、今日に至るまでの研究動向を検討しながら、総合的に考察することにありました。ここでは、特に、「人間能力」(capacités humaines)、「人間性」(la nature humaine)、「自己」(soi)という異質な三つの観点に注目しつつ、議論が進められました。

第一の「人間能力」の改善については、人類を遺伝的・技術的な介入によって進化させることを前提としています。特徴的な事例として、薬学において、医療的な手段を非医療的に拡大して適用した上での、成長ホルモンの投与による身体の成長や、アルツハイマー病の薬による記憶能力の増大などが挙げられます。

第二の「人間性」の改善については、抽象的な言説にその起源が認められるだけでなく、これは、哲学や政治、道徳、宗教など様々な領域にも関連していきます。具体例として、コンドルセ Condorcet(1743-1794)の進歩の観念や、優生学におけるフランシス・ゴルトン Francis Galton(1822-1911)の議論、近年では、ジョージ・アナス George Annasや、応用倫理学におけるジョン・ハリス John Harrisの著作について説明がありました。

第三の「自己」の改善について、これは主に、個人についての主観的解釈に依拠しており、「自己同一性」の探究がその根底にあると言えます。とりわけ、エンハンスメントの文脈において、自己の改善は、薬などによって、人格の変化を図ることにより、自分の状態をより良くしたい、という人間の本性的欲求に基づいていると考えられます。しかし他方で、そのことが自己同一性を危機にさらすことにもなりかねないという、逆説的な意味合いも、この問題は含んでいます。

以上、近年、世界的に注目を集めるエンハンスメントは、人類に多くの恩恵をもたらすと言われる一方で、多くの倫理的問題も引き起こすと考えられており、発表後の質疑応答の時間には、賛否両論を孕んだこの概念について、IPS細胞など最新科学技術の話題にも触れながら、様々な意見が飛び交いました。フランスの科学認識論(エピステモロジー)を代表する研究者にふさわしい、明快かつ緻密な報告となりました。

ガイヨン先生
会場の様子
質疑の時間、右から、安孫子信先生、ケメック先生、ロンキ先生
ガイヨン先生と司会の金森修先生

ロッコ・ロンキ先生の授業 (2013)

イタリア、ラクイラ大学のロッコ・ロンキ先生の6回にわたる授業が開講されました。講義のテーマは、「絶対的内在について」でした。ベルクソンをはじめとする哲学を専門としておられるロンキ先生は、「絶対的内在」の観点から「生成」(devenir)の観念の刷新に取り組んでおられます。近年のご業績の一例として、以下が挙げられます。Filosofia della comunicazione (Bollati Boringhieri, Torino, 2008)、Filosofia teoretica. Un'introduzione (Utet, Torino, 2009)、Bergson. Una sintesi (Marinotti, Milano, 2011)、Come fare. Per una resistenza filosofica (Feltrinelli, Milano, 2012)

今回の授業の概要として、まず、ベルクソン(1859-1941)の『形而上学入門』(1903)と、ハイデガー(1889-1976)の『カントと形而上学の問題』(1929)を主に参照しながら、「形而上学」について解説がなされました。その後、ベルクソンの議論を中心に言及しつつ、「絶対」(absolu) 、「直観」(intuition)などのキーワードを挙げて、ベルクソンによる形而上学批判について、また、ベルクソンが「充足」(plénitude)、「継続性」(continuité)について、どう捉え直していったのかについて説明がありました。講義の後半では、アリストテレスも参照しながら、「生成」(devenir)や「個体性」(individuation)、「行為」(acte)、「生けるもの」(vivant)といった諸問題を取り上げ、「絶対的内在」に関するロンキ先生の解釈が提示されていきました。講義内容と関連した現代フランス哲学では、ドゥルーズ(1925-1995)の『シネマI』(1983)、ミシェル・アンリ(1922-2002)の「自己触発」(auto-affection)などにも話題がおよびました。

「形而上学」という哲学の主要分野を掲げた本講義は、多くの哲学者を取り上げながらも、主張は非常に明快な講義であり、授業最終日の夜に開催された東京大学での講演会とも併せて、ロンキ先生のこれまでの研究成果の一端を垣間見ることができました。

ロッコ・ロンキ先生
質疑に答えるロンキ先生