Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

report

キアラ・メンゴッツィ先生の授業 (2015)

チェコのフラデツ・クラロベ大学キアラ・メンゴッツィ先生の6回の講義が行われました。講義のテーマは「哲学と文学との間の認知の戦い―ポスト・コロニアルのシナリオ」です。

メンゴッツィ先生の授業は、ヘーゲル『精神現象学』の中の「主人と奴隷の弁証法」という有名な箇所の説明から始まりました。これは、人間が自由で自立的な存在であるためには他者からの承認が必要であり、人々の間では相互承認を求める闘争が生じるが、当初は従属的存在である奴隷は、労働を通して主人を己に依存させ最後は自立するに至る、と主張するものです。この「主人と奴隷の弁証法」は、ポスト・コロニアル文学の解釈に多様に関わります。

以上の説明を受けて、第二回からは学生の発表を中心に授業が進みました。まず取り上げられたのはフランツ・ファノン(1925-1961)です。ヘーゲルの自己意識の問題は、ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』(1952)においても色濃く現れます。しかし、黒い皮膚を持っているという意識が他者との関係にもたらす歪みを、「主人と奴隷の弁証法」は解き明かすのかについては、ファノンのこの作品は懐疑的な姿勢をとっている、と指摘されました。

次にはジャン=ポール・サルトル(1905-1980)の『存在と無』(1943)と『黒いオルフェ』(1948)が取り上げられました。そこから出発して広く、プロレタリア文学や、続くポスト・コロニアル文学について、議論がなされました。「主人と奴隷の弁証法」を軸にして、特に言語の問題が取り上げられました。サルトルの『黒いオルフェ』が序文となっている『ニグロ・マダガスカル新詞華集』(サンゴール編)は黒人的エクリチュールを確立したとされますが、フランス語で書かれています。マイノリティ言語側が、あえて植民側の言語を使いつつ、"ステレオタイプ"で知的な文学活動をするという行為は後に、ヌルディン・ファラー やチヌア・アチェベ、さらにカズオ・イシグロなどにも引き継がれていきました。

講義の後半ではエンニオ・フライアーノやミシェル・トゥルニエなど、ポスト・コロニアル作家の文学作品がまさに取り上げられました。トゥルニエで取り上げられたのは、無人島を舞台に話が繰り広げる『フライデーあるいは太平洋の冥界』です。ロビンソンとフライデーという「文明」と「野蛮」を体現させた正反対の二人の登場人物は、特異な主従関係を通して、他者認識と自己認識にまつわるヘーゲルの「主人と奴隷の弁証法」の諸問題のパロディ化を見事に遂行しているのです。

メンゴッツィ先生の授業では、哲学の問いを、文学作品の更なる解釈の手引きとして用いるということだけでなく、文学作品を通して、哲学を疑い、哲学を更に深く考え直すことが行われました。文学の持つ独特の語り方や、言語の使い方などは、哲学を掘り下げて、哲学に新たな展開をさえ与えうるものなのです。こうして受講者たちは、現代文学の、哲学的でポエティック、かつポリティックな生命力に触れる、とても刺激的な六日間を過ごすこととなりました。

授業風景

発表する学生たち