Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

report

村上靖彦先生の授業 (2014)

大阪大学の村上靖彦先生による授業が行われました。今回の授業のテーマは、「日本の精神看護医療の現象学」でした。村上先生は、医療現場の出来事や看護師と患者への直接のインタービュー結果を、現象学の立場から解釈されており、今回の授業では、精神病院の現状分析を通じて、より実践的な哲学のあり方とその方法が提示されました。以下に議論の一部をご紹介します。

あらゆる組織には規範が存在します。精神病院で目にするのは、入院患者を保護し管理するという目的で、施設のつくりそのものにおいて、規範が空間化されていることです。この空間化された規範は、身体の延長として、患者の身を守っていると考えられるでしょう。またそれは、隔離という観点からすれば、『監獄の誕生』(1975)でミシェル・フーコー(1926-1984)が説いた「規律権力」を、反抗する身体への空間的な拘束という形で、端的に実現させているともいえます。この意味において精神病院には、物理的に拘束して保護するという可視空間の規範が存在するのです。さらに、このような規範の空間化は、物理的な水準にとどまりません。というのも、上から下へ指示を伝達する看護師同士や、看護師と受け持つ患者のルールに基づいて、病院は組織され、規範は作動していくからです。とはいえ、ここでいう看護師と患者のルールは、強制的ではなく、共同体を維持するための自発的で内発的なものです。看護師は、受け持つ患者にはきびしくしつつも、他の患者にはやさしく接するなど、患者によって情動上の距離の違いをつくり、病棟の人間関係を空間化して、規範にバランスを与えているのです。

こうした規範が作用する中で、看護の要点となるのは、そこにおいて、いかに自由で自発的な秩序を作り出すかということです。つまり、厳然とした規範を前提としつつも、それと異なる自由な空間をいかに作り出すかということです。例えば、患者が看護師から見られ、慕われ、散歩したり、一緒に楽しむ中で、規範とずれた別の空間が生成されてくるというわけです。それは、規範の空間を揺さぶる「遊びの空間」といえるでしょう。このようにして病院は、単に規範が可視化した管理の空間ではなくなります。多くの患者にとってそこは、複雑な社会とは区別された、安心できる「家」となります。イギリスの精神科医ドナルド・ウィニコット(1896-1971)が問題にしたように、長期入院患者にとって病院は、隔離された環境でありながら、逆説的に、そこから出られない「我が家」でもあるのです。

しかし、入院のすべての段階においてより重要なことは、病院から「外」に出る回路が存在することです。つまり、単に散歩によって外の世界に触れるだけでなく、病院の規範から解除されて社会の規範の中に収まるまで、患者は病院の内と外を往来できるということです。この意味で、現在の医療が目指す病院とは、患者が社会に出るための準備といえます。こうした施設で、とある患者は入退院を繰り返し、看護師は異動でさまざまな病棟を循環するなどして病院内の人間関係の固定化を防ぎ、看護しやすい環境と、それに伴う自由な遊びの空間は存続していくのです。

村上靖彦先生