Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

report

原和之先生の授業 (2013)

5月24日から三週間、原和之先生による全三回の授業が行われました。

授業のタイトルは「分析と欲望(l'analyse et le désir)」です。精神分析(psychanalyse)においては「分析(analyse)」という言葉は精神分析を指して使われるのが一般的ですが、この講義では「分析」という概念一般の起源とその歴史的変遷を踏まえ、その上でジークムント・フロイト(Sigmund Freud 1856-1939)およびジャック・ラカン(Jacques Lacan 1901-1981)の精神分析が分析概念一般の中でどのように位置づけられるのかを、特にラカンの欲望についての理論が分析概念にもたらした新しさを明らかにすることを目的としています。

ジャック・ラカンは精神分析の基礎を確立するために、フロイトの著作の再検討を行いましたが、講義ではラカンが精神分析にもたらした新しい理論を、18世紀末にフランスの数学界で起きた「解析学革命(révolution analytique)」と呼ばれる運動に比較して論じました。解析学革命とはラグランジュ(Joseph-Louis Lagrange 1736-1813)、ラクロワ(Sylvestre-François Lacroix 1765-1843)、モンジュ(Gaspard Monge 1746-1818)などの数学者たちが作った、新世代の理論家たちのための教育プログラムを発端とする数学教育の発展を指しますが、これによってそれまで幾何学計算のための技術でしかなかった解析/分析(analyse)がそれ自体独自の学として見なされるようになり、単なる計算の一手法に留まらない意味を持つようになりました。

数学の解析/分析(analyse)はもちろん精神分析と同じものではありませんが、どちらも分析(analyse)としてのエッセンスを共有してはいます。そもそも分析という概念には二つの起源があり、ひとつはユークリッド幾何学、もうひとつはアリストテレスの『論理学』です。前者において分析とは予想される結論を最初に仮定すること(supposition)であり、後者では論証をより単純な要素へと分解すること(décomposition)とされています。フランソワ・ヴィエト(François Viète 1540-1603)が体系化した解析学(art analytique)は、この二つの要素を組み合わせて代数計算の手法としたものです。フロイトの精神分析もまた、神経症患者の言動の裏にある無意識の欲望を仮定し、その仮定を裏付けるために患者の言動を分解して考察するという、分析の二要素を用いています。

ラカンの欲望理論の特徴は、フロイトの分析手法の詳細な検討に基づいて、分析行為の構造を人間存在一般に当てはまるようなものとして提示したことでした。講義ではラカンが初期の論文で発表した「欲望の公準(postulat du désir)」の図式や、フロイトが提唱したオイディプス・コンプレックスの再検討などについて論じられていましたが、こうした理論によってラカンが明らかにしたのは、我々が他者について知ろうとするときに必然的に遭遇する、「仮定と分解」という「分析的契機(moment analytique)」の存在です。ラカンはこうして、分析概念を精神病患者に留まらない、より普遍的な人間の本質にまで拡張したのです。その意味で、精神分析はもうひとつの「分析革命(révolution analytique)」であると言えるでしょう。

原和之先生