Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

report

河野哲也先生の授業 (2013)

立教大学の河野哲也先生の二回の講義が開講されました。本講義のテーマは「心のエコロジーに向けて」でした。

初回で中心に扱われたのは、アメリカ人心理学者のJ.J.ギブソン(1904-1979)についてです。晩年の著作である『生態学的視覚論』(1979)まで、ギブソンの一連の仕事が紹介された後で、とりわけ、彼の生態学的心理学の核心をなす用語である「アフォーダンス」の概念が説明されました。「アフォーダンス」とは、英語のaffordを名詞化したギブソンの造語で、動物にとって、どのように行動できるのか、どのように行動すべきなのか、等にかかわる環境の特性を指します。またエコロジー(生態学)とは、動物と環境の相互作用を研究する生物科学のことで、ギブソンは、このエコロジーの発想から新しい心理学を切り拓こうと試みました。これは、例えば、デカルト哲学における独我論的な内面性とは大きく異なる立場です。つまり、ギブソンによると、心は身体と環境の関係性に存することになります。こうしたギブソンの心理学は、美学や建築、工業デザイン、教育等にも受け入れられ、適用されています。(この主題に関する河野先生の著作の一例として、以下が上梓されています。『<心>はからだの外にある』 NHKブックス, 2006年2月.) さらに、ギブソンのこの考えに通じる概念として、A.クラークとD.チャーマーズによって提起された「拡張した心」についても解説がなされました。

続く二回目の講義では、以上のギブソンの思想を応用する形で、「痛み」(douleur)についての考察がなされました。われわれが日常生活で経験するあらゆる苦痛は、一概に定義することが難しい事柄の一つと言えます。例えば、身体的な痛みとは、個人的なものとみなされるのが一般的ですが、間主観的あるいは社会的文脈においては、必ずしもそうは言い切れません。その点を踏まえ、実際の医療現場における慢性的な苦痛の事例も挙げられ、医療人類学者のA.クラインマン、社会学者のJ.コールの議論、メルロー=ポンティの『知覚の現象学』(1945)における「幻影肢」についての議論等も引用され、「痛み」をめぐる多角的な解釈がなされました。

以上、本講義は、筆者にとって、ギブソンの思想の内実と、それが様々な分野において、現実的な応用に優れていることを実感できる時間となりました。

河野哲也先生