Hosei Erasmus Mundus Program Euro Pholosophy

Hosei Erasmus Mundus Program, Euro Pholosophy - Over the two academic years 2008-9 and 2009-10 at Hosei University, classes for the first semester of "Euro Philosophy", an EU Erasmus Mundus Master Program, have taken the form of one-month intensive lecture series. This is the first instance in Japan of administering such a large-scale intensive lecture series within the Erasmus Mundus Master Program.

report

ジャン・ガイヨン先生の授業 (2013)

4月2日から4日までの三日間、ジャン・ガイヨン(Jean Gayon)先生の講義が行われました。
ガイヨン先生は生物学を専門とする科学哲学者で、今回の講義は生物学において用いられている諸概念が抱える哲学的問題をテーマとしています。

一日目のテーマは「法則(loi)の概念は生物学に適用可能か」でした。法則とは古くは数学の概念であり、後に物理学や化学において適用されるようになったものです。しかし科学における法則はまず理論上の必然性(necéssité)から生まれるものであり、経験に基づくものであるとは限りません。例えば落体の法則をガリレオが発見した時代、物体がどのように落下するのかを正確に計測する方法は存在しませんでした。したがってこの法則は理論上の要請に基づくものであったということになります。法則の概念を生物学に適用する際に問題となるのは、生物学にこのような「必然性」が存在するのかどうかという点です。これに対してノーと答えたのがオーストラリアの哲学者J・J・C・スマート(John Jamieson Carswell Smart 1920-2012)です。スマートによれば、生物学には一般化(generalisation)はあっても法則(law)は存在しません。なぜなら生物学が扱う対象は分類学上の特定の種であり、そこに見出される規則性が普遍化可能なものであるという保証はどこにもないからです。実際、生物学の領域で起きることの大部分には例外が存在します。またたとえ例外が発見されていないとしても、ある生物が与えられた環境とはまったく異なる条件においても同様の性質を持つかどうかを知ることはできません。つまり生物学においては一見法則と思えるものも、実は「事実上の普遍性(universalité de facto)」以上のものではなく、そこに論理的必然性を見出すのは困難です。したがって結論としては、生物学に法則は存在しない可能性が高いということになります。ガイヨン先生は、生物学で法則に近いものが存在するとすれば、おそらくそれは自然淘汰のような動的なものに求められるべきだろうと述べています。

二日目は「モデル(modèle)」とその方法論についての問題を扱いました。モデルは様々な分野で使われる方法で、たとえば模型を使って飛行機の仕組みを研究するといったものがこれに当たりますが、その特徴は自然界の物体や現象への「類似(analogie)」に基づいたシステムを利用するという点にあります。生物学においては13世紀にロジャー・ベーコン(1214-1294)が使用した「カメラ・オブスクラ(camera obscura 穴を開けた箱を用いて視覚の仕組みを再現した装置)」や、DNAのらせん模型などがありますが、これらはどれも直接には知ることのできないものを、類似した仕組みを用いることで間接的に研究できるようにしたものです。生物学者はこうしたモデルに基づいてひとつの仮説を立て、そこから理論を構築しようと試みますが、このときモデルがしばしば仮説や理論それ自体と混同される、という問題が起きます。このため生物学の仮説は、それがいかなるモデルに基づいているのかが曖昧であることが少なくないとされています。

三日目は「機能(fonction)」の概念とそれが抱える問題を扱いました。機能は生物学の領域における支配的な概念であり、ほとんどあらゆるものが機能の観点から、すなわち「それは何をするためのものなのか」という観点から考察されます。ある物体や現象を、それが果たしている機能によって定義するこの考え方を「機能帰属(attribution fonctionelle)」と呼びます。この考え方の問題は、ある物体や現象が果たしている機能を、その物体や現象が存在している理由とみなしてしまうことです。たとえば「心臓の機能は血液を送り出すことである」と述べることは、同時に「心臓は血液を送り出すからこそ存在している」ということでもあります。しかし他の科学、たとえば化学においては「電子の役割は原子同士の結合を可能にすることである(=電子は原子を結合させるために存在している)」などということは言えません。生物学では事実上の結果(血液を送ること)から現象それ自体(心臓の存在理由)を説明するということが行われているわけです。
機能の概念に対する説明原理として、この授業ではラリー・ライト(Larry Wright)の「事由論(théorie étiologique)」とロバート・カミンズ(Robert Cummins)の「システム論(théorie systémique)」が挙げられていました。この二つについて詳しく説明するのは避けますが、これらの理論を見ていくことでわかるのは、機能という概念が何であるのかは、それを説明する原理に大きく依存しており、機能についての統一的な定義は今のところ存在しないということです。これは機能という概念それ自体が相対的なものであることを示唆しています。

ガイヨン先生